ムルガン様

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今回の記事は、昨年秋に見た自分の夢と数年前の現実の記憶が交錯するという、内容を追う上でやや紛らわしい構成になっています。
もちろんそれは私の能のなさによるのですが、こうした形でしか私は自分の中に根付いているインド世界から受けた影響の実際を、心理状態に即したものとして書き表すことが出来ないように感じています。
なので、今回の主題はそうした性質のものであることを予め断らせていただき、己れの至らなさを懺悔したいと思います。


夢。
e0296801_251326.jpg私はまたインドにいます。私は庇のついた屋台のような建物でインド人家族と歓談しています。目の前には川が見えて、周囲は何処となく古い町並みに感じます。
私はたまたまの流れで簡単な読心術を家族の前で披露します。ヤマカンか状況を読んでか、自分でも判然としない感じで、しかしかなり具体的かつ正確にズバリ相手の行動や考えが読めてしまう、ということが私にはたまにあります。
その家族の、そう若くもない知的障害者らしき娘が、片言のヒンディー語と英語で私に話し掛けて来ます。
最初、ヒンディーの拙い私は娘とのやり取りがスムーズにいかなかったのですが、それでも段々意思疎通が可能になって来ました。どうも彼女は私が先ほど家族の前で読心術を披露してから何か思うところがあってこちらを注視していたらしかったのです。そのことがあやふやな会話を通じてなんとなく伝わって来ます。
そして彼女はシヴァがどうのこうのとしばらく不明瞭にごにょごにょ言った後で、唐突にムルガンダ、と言い出します。

もし、彼女が言おうとしたのが「ムルガンダ・クティ寺院」のことならば、それは仏陀が悟りを開いた後、最初の雨季を過ごしたとされる場所に建てられた、サールナートにある寺院のことです。夢の中のその川がある古い町が仮にバラナシであればサールナートとは距離的にも近いし、おまけに私は仏教徒の多い日本人です。彼女が話の引き合いに出しても不思議ではありません。
しかし、私は咄嗟にムルガン神とスカンダをごちゃ混ぜにして言っているのだろう、と推測しました。ムルガン神とスカンダは同一視されているからです。そしてムルガン様はシヴァ神の息子です。彼女の事前の発言とも符合します。

e0296801_22245612.jpgスカンダはヒンドゥー教の軍神で、戦争以外はあまり考えていない上、女性すら近付けず、自分の神殿に女性が入ることすら拒みます。カウマーリまたはデーヴァセナという妻・パートナーがいる場合もあります。
ムルガンとは「神聖な子供」という意味で、元々はドラヴィダ系民衆が信仰する土着的な山の神でした。現在も南インドのタミルナードゥ州などで盛んに信仰されています。無類の強さを誇る山の児童神です。何の変哲もない子供の姿をしているため、油断してやられてしまう悪魔も多い、というのがこの神様の基本設定です。ムルガンは孔雀を連れていることが多く、そのためスカンダと同一視されます。

「ムルガン?」
私が彼女にそう確認すると、彼女は我が意を得たり、といった感じで同意してうなづきます。そして急に滑舌が明瞭になってきて驚くべき発言をし出します。
「お前は今、ムルガンと共に旅をしている。そして、それを彼は楽しんでいる。お前は今『ダブル』だ。」
衝撃的でした。夢を見ている私は一人でガーンとなっているわけです。
実は私は、八年ほど前からそのムルガン神という南インド土着の神様に纏わる様々なエピソードを体験して来ていました。


e0296801_2362869.jpgタミルの山にはムルガン神の立派な寺院があり、民間の宗教画にはよく山の上に立つムルガンの姿が描かれます。
e0296801_1425438.jpg八年前、スリランカ南部のウナワトゥナという沿岸の町を訪問した際に、突如夢枕にムルガン神に立たれるということがありました。彼は一言も言葉を発しないのですが、私の夢の中のいろんな場面に何の脈絡もない感じで闖入してきては佇んでいるのです。
その感じがなんとも名状し難い面白みと魅力、インパクトがあったので、以来、急激にその児童神に親近感を覚え出し、アイドルのポスターを買い漁るファンの如く行く先々で彼の神様ステッカーやポスターを集め出すように。
尚且つなぜか私自身が、道行く南インドの現地人に「ムルガン、ムルガン」と騒がれるという珍妙な出来事が度々続きました。それで自己暗示にかかるほど自分が単純な性質であるとも思っていなかったのですが、どういうわけだか時々自分にムルガン神が乗り移ってきたような変な感覚に襲われることまで起こってきてやや当惑。
道行く人になぜ私のことをムルガンと呼ぶのか直接理由を尋ねてみたこともあるのですが、どうも一昔前に普及していたムルガンのポスターの風貌と私がそっくりであるというのが主たる原因のようでした。それで徐々に好奇心を抑えられなくなってきて、気が付けばとうとう南インド各地のムルガン寺院を巡礼し始めるまでに。

そこまでの行動に至ったのも数々の偶発的な出来事に促された結果であって、どうにも奇妙な具合でした。
例えばマドゥライの軽食屋でたまたま知り合った現地人から頼んでもいないのにムルガン寺院のある聖地までの行き方を懇切丁寧に教えられて、最初はいきなり初対面の相手に聞いた情報ですし、互いの会話自体も片言の英語しか話せない現地人と、タミル語の話せない図々しい来訪者である私との間でなされたあやふやなものだったのでリスクを鑑み尻込みしていたのですが、相手があまりに邪心のない素朴そうな感じでニコニコ微笑みながら勧めてくるので何か強く心を動かされるものがあって思い切って行ってみると、そこでまた次の場所へ行く情報が向こうからやって来る、といった調子。「え~、ウソでしょう?!」と目を丸くしてしまうような出来事の連続でした。
まあ、ただ、こういうのはインドにいくらか行ったことのある人ならば、誰しも多かれ少なかれ身に覚えのある種類の経験だとも思うのですが。いろんな出来事が絶えず重層的につながっている日常、とでも言えば良いのでしょうか。

e0296801_15304012.jpgムルガン神信仰の総本山であるパラ二を訪問した際にもトントン拍子の展開でした。
感じるところがあって描いた自筆の絵を奉納しに行ったのですが、そのことを寺院の神官達に伝えたところ、どういうわけだか即ちょっとした騒ぎになって、なんと得体の知れない外国人である私が何時間と並んでいる他の参拝者の大行列を尻目に、御神体のある本殿まで直行で通されて参拝させてもらえるという厚遇を受けることに!そこは山丸ごと一つの大寺院の深奥であって、当然現地の一般参拝客でも入れません。
根がチキンな私は、石造りの荘厳な神殿の仄暗い奥へと連れて行かれる途中、内心、一瞬本気で走って逃げ出してしまおうかと考えたほどです。今から振り返ると、何か得体の知れない事態に巻き込まれつつあることへの本能的恐怖だったのだと思います。
__でも、ダメだ。もう今さらどうしようもない。そんな冒涜行為が許されるはずもない。誰に対して?異国の神様に?この場所にいる周囲の人達に?自分自身のプライドに?
はっきりとは分からなかったのですが、とりあえずそれらすべてに該当してしまう気がしました。覚悟を決めて臨むしかないようでした。しかし心臓の高鳴りは止むことがありません。
そしてそんな私の期待を裏切らないかのように、あろうことか本殿の御神体の前にはロウソクの炎に照らし出された神憑りの神官がバキバキの眼つきでいて、その人物がまた物凄いのです。
タミル語を解さない私には何を言われているのか明確に分からなかったのですが、それでもトランス状態の神官の抑揚のあるボディーランゲージと分かりやすいセンテンスの連呼はまさに言語の壁を乗り越える力があって、あれこそシャーマニックとでも呼べばいいのでしょうか、神秘を肌で感じる体験でした。
ムルガン神がスリランカで私の夢枕に立ったことや、私がムルガンと呼ばれババジー(賢者・聖者)扱いされたこと、ヒマラヤでとある女神に会ってきたこと、私のそれまでの人生のあらましなどを彼がかなり具体的に次々言い当てているのがはっきり確認出来た上に、そもそもその祝祭的で猛烈な祝福の仕方は、もう理解どうのこうのを必要とする次元ですらなかったのです!
も、もう降参です。煮るなり焼くなり好きにしてください!私は御神体の前にひれ伏しました。
そして、頭上からザバザバと夥しい量の聖水を浴び、豪勢な花の首飾りを掛けられた私が本殿から表へ出ると、予定調和的な流れですが、スーパースターが登場したかのような凄い注目の的に。現地の人達から次々記念撮影をせがまれることになり、一列に並んで参拝客の団体様ご一行と写真を撮ったりして、なんだかよく分からなかったです。

これはあなたが信じようが信じまいが全部実話です。


e0296801_146965.jpg夢の続きに戻ります。
私がその知的障害者の女性を、途中からある種の神憑り的な人物として見做し出したのは、ここまでの過去の実体験の経緯説明によって理解してもらえると思います。パラ二で会った神官のような種類の人間の言葉として、私は彼女の発言を傾聴し出します。
ひょっとしたら「ムルガンダ」という言葉にも複合的な意味合いがあるのかも知れません。トランス状態や譫妄状態の人間が言葉を扱う時には、瞬時にそういう掛け言葉のようなひらめきを含んだ重層的な内容の会話をぽんぽん繰り広げてくる、ということがままあるからです。
彼女は続けて言います。
「お前はやがて『ゲットー』に行くことになる。それをムルガン様も理解されている。」

ゲットーだって??
ゲットーと言えば元来はユダヤ教徒を強制隔離した一定の居住区をいいますが、これを一般化して少数者集団が密集して居住する地区について用いられることもあります。
アメリカで言えばスラム街(貧民街)というより、暴力や犯罪がはびこる危険地帯、といった意味合いの方が強いです。現在のアメリカ人の平均寿命は大体79歳くらいとされていますが、ゲットーの平均寿命は35歳程度だという話もあります。
何にせよ不安に駆られる話ではあります。ですから彼女にその私が将来行くゲットーはどんな所なのかと聞きました。すると唐突に片言の日本語で返答が返ってきました。
「サッムイ〜(寒い)場所。」
そう言って彼女はふふふふふと笑ったのです。

e0296801_1544442.jpg日本は私にとって十分北の国に感じます。況してや、その夢を見た季節はこれから落葉の季節になる頃でした。南インドに住まわれるムルガン様ならさぞや寒い土地と感じられることでしょう。そもそも人類の祖先は元々熱帯地方のジャングルの中にいた猿なのです。
ただ、自分が四季のある日本の環境に生まれ合わせたことを特別不運だったとも思ってはいません。人類は疫病や競合動物の多さから頭打ちだった故郷アフリカを出てユーラシア大陸へと進出する過程で新たなニッチ(生態的地位)を獲得して飛躍的に発展した存在なのです。だからいくら南国趣味の私であっても、人類が今日世界中に住み広がっている現象自体を変なことだなどと言うほど野暮ではありません。
さりとて今、私は自分にとっては結構「寒い場所」の大都会の片隅で、比較的この国のマイノリティの側に立って暮らしている、というのは紛れもない現実で、そこの部分を拡大解釈して言うならば確かに「ゲットーのような環境」にすでにいる、と言えなくもないし、「それをムルガン様も理解されている」というのなら、何か励まされないでもありません。

e0296801_2181181.jpgなるほど、そうか。
でも、「お前はやがて『ゲットー』に行くことになる」なんて、ちょっとドキッとしちゃったな。何かいたずらっ子みたいな茶目っ気さえ感じる言い回しではないですか。
やはり夢に登場した彼女もあの児童神に仕える者だったのか、なんてアニミズム的思考で考えてみたりしました。

私が勝手にこうした夢を見たのであっても、児童神ムルガンに関わる出来事はインドでも毎回なぜか今回の夢と同じような、ユーモラスでトリックスター的なトーンで起きてきたのも事実で、だからこそ今でも時折このような形で夢を見るのかも知れません。
インド的なものが自身の人生の中に徐々に浸透してくると、個人差はあれど皆いくらか似通った文化的・精神的同化作用の体験をするとも思います。
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by catalyticmonk | 2014-05-04 19:05 | インド生活 | Comments(0)


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