「ファム・ファタール」が表す社会的倒錯の実体と人権の後進性について

「ファム・ファタール」という言葉は、意味合い的には男を破滅させる魔性の女、というドラマティックなイメージを指していて、だから芸術絵画や小説の題材にもよくなるのだけれど、そこでまず想起される典型的な例はマタ・ハリだ。

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彼女は第一次世界大戦中にスパイ容疑でフランスに捕らえられ、有罪判決を受けて処刑された。
だけれど、資料を読んでみると、要するに裕福な家の少女が没落して、踊り子やストリッパーをやっているうちに高級娼婦になって、敵味方に分かれていた多数のフランス軍将校やドイツ軍将校とベッドを共にしていた、という社会背景・時代背景が騒動の根幹にある。
だから、彼女が独仏どちらの陣営に対しても意味のある情報をもたらした証拠は一つもないのに、フランス政府にとって不利な戦況の中で軍事上の失敗をマタ・ハリの責に帰することは大変好都合だったので銃殺されてしまった、という世の非情そのものの物語だ。

生きていくのも精一杯で、男どもに弄ばれているうちに、厄介払いと責任のなすり付けで殺されてしまった悲運の女性を、魔性の女だ、と伝説化して有名にしただけなのだ。
こうした経緯は、マタ・ハリも実際にいくらかスパイ行為をしていたのだろうけれども、本質は非力な没落した境遇の女性にいろんな思惑の悪党どもが絡んでいき利用していた、という話であって、「男ども、とんでもいないな」という、シンプルかつ公平に捉える視点がまず当然必須だ。

これは、結構ファム・ファタールの本質も表していて、確かに性的な誘惑で男性を手玉に取る女性は世に存在する。
でも、それで彼女達が大金持ちになって社会的にも成功してめでたしめでたし、という話だとファム・ファタールの従来のイメージとは離れていくから、やはり彼女達自身が自滅していく、というテーマも表している。
つまり、そこには女性の性的な魅力を武器に使いながらも男性優位社会に押し潰されて破滅していく、社会が開明的でないからこそ生じる悲劇の一定のお決まりパターンが存在する。それを「ファム・ファタール」と呼んだ、という側面がある訳だ。

あと、大きいと感じる要素は、心理学的に言うところの人格障害の問題ではないだろうか。
他人を意識・無意識に振り回すという。
それは、男性であれ女性であれ、性別やジェンダーの別関係なく正当化出来る話でもなくて、たまたまそうした人物が女性だった、というだけの話だ。

そこに女性性がついてくると奔放な性生活というのも起きてきて、それもただの自由恋愛なら騙された男性も自業自得なんではないか、と思うけれど、人格障害はもっと深く病んだ自己愛の闇があって、関わる人を強力に掻き乱して不幸にする。むしろそういうタイプだと女性である事を隠れ蓑に使って、犯罪レベルの騒ぎに至る問題まで起こし得るのでシャレにならない。
でも、それにしたところで、その人物が「女性である事」自体に特別な罪深さがある訳ではない。
男尊女卑の世界だからこそ、そういう過激なサバイバルを一定の性質の人達が一層選択しやすくなる、という構造も間違いなくある。

性的威力を使うというのは、当人達自身も不幸になる事だ、という部分が絶えずついて回る。純粋に詐欺商法で他人を破滅させて自分だけ儲かった、といった話とはズレてくる確率が高くなるからだ。
そして、一旦女性が世間的に「悪女」と認識されると、まさに血も涙もない制裁を受けて、ボロ屑のように人生を蹂躙されて終わるという、野蛮で残酷な世の愚かしさの定番的な悪弊でもある。

社会に元から存在する差別や偏見と、個人の行動の重みが、どうにも整理されていない形で混同されて、フェアでない話になっているケースは未だに多いだろう。
「ファム・ファタール」という一連のイメージが社会的には何を表していたか考える行為は、根深い人間社会の歪みや非理性的なままの問題点を照らし出す一つの切り口だと感じる。
芸術作品や小説などで大量に扱われてきたテーマだから、考えるきっかけを得やすい、というのもある。

また、今でもそれは「ファム・ファタール」なんて言葉を持ち出すまでもなく世に満ち溢れていて、整理されないまま放置されてその辺に転がっている、社会関係混乱の一典型的パターンなのだろう。

ただ、念を押して言うなら、これは「女性の問題」ではない。
それは、女性性や男性性は傾向としてあるだろうが、もっと社会環境的なものとの複合で、混乱した認識が発生している、という意味で、これは女性の話と言うよりも、そういうイメージをドラマ化して捉える人間社会全体のテーマだと私は思っていて、本来は特に小難しい話ですらない。
未だに社会通念が大きく歪んでいるので、そこを公正に捉えるのに手間がかかる、というだけだ。

中世ヨーロッパや江戸時代に、「人間は平等だ、個人の自由と人権は尊重されるべきで、それは宗教も冒せない」と言ったら、間違いなく狂人扱いになるはずだ。
今、目の前にある社会の中で、倒錯している観念や現象を、真っ当に捉え直す作業なしには、民主主義も自由も平等もあり得なかった。その歩みを止めてはいけない。

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by catalyticmonk | 2017-05-01 23:27 | 異端者を作り出し疎外する社会 | Comments(0)


溢れ出る部分を勝手にやっています。異端者のあなた、多分私はあなたの味方か仲間です。 河元玲太朗


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