プライバシーと個人の尊厳、人生時間の重み

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副住職の妻のAV出演歴が発覚して、経営する幼稚園が大騒ぎーー離婚
https://www.bengo4.com/internet/n_4202/


「妻が20年前に出演したAVを理由に離婚できますか?」。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにこのようなタイトルの質問が投稿された。

投稿者は、実家が営む寺院で副住職をしているという男性だ。英才教育を推進する人気幼稚園も運営している。男性は、数年前に住職である親の反対を押し切って、ホステスだった妻と結婚した。しかし、最近になって園児の親から、妻について「AV女優だ。月謝を返せ」といったクレームを受けたという。確認すると、妻が20年前に複数のAVに出演していることが判明。妻も出演したことを認めたのだそうだ。

保護者からは批判が寄せられ、父親の住職も憤慨。投稿者の男性自身も「宗教法人、学校法人としても一生この事を抱えていくのは無理」といい、離婚を考えているのだという。はたして、妻の過去のAV出演が発覚したことを理由にして、離婚することはできるのだろうか。寺林智栄弁護士に聞いた。

●AVとは言え、20年前の話まで告白する義務なし

「まず、妻のほうが応じてくれれば、それで離婚できます。問題は、妻が離婚に応じてくれず、裁判に発展した場合です。裁判で離婚ができるケースは法律上、限られています。今回の件は『婚姻を継続し難い重大な事由』という裁判上の離婚原因があるといえるかどうかが、問題となります。

妻のほうは、結婚前に、夫の仕事の特殊性を知っていました。幼稚園を経営する、お寺の副住職。品行方正さが求められる職業です。いっぽう、AV女優は性を売り物にする職業。その過去がばれたのであれば、夫婦間の信頼関係は破たんし、裁判上の離婚原因があるといえるようにも思えます」

ただ、妻がAV女優をやっていたのは、20年も前だ。そんな過去の事実まで、夫に言わなければならないだろうか。

「たしかに、最近のことなら話は別ですが、そこまで古い過去のことを告白する義務が妻に課されるとは、考えられません。また、そもそも夫は、妻がホステスという、いわば水商売をしていたことを知って結婚したわけです。『ホステスは問題なくて、20年前のAV女優はけしからん』と言うのも説得力に欠けます。

個人的には、裁判離婚の原因までがあるとは言えないと考えます。妻が協議に応じない場合、夫は離婚するのは難しいでしょう。もちろん慰謝料をとることもできません。

なお、仮に離婚が認められるとしても、子の親権の問題はまた別の話です。妻の子に対する監護養育のやり方が不適切だったと言えない限り、妻が親権を取得することは十分にあり得ます」

寺林弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)


結局は夫婦間のことだと思うので、そこは本来なら他人が口出しすべきでないと思いますが、こういうことを告げ口して非難する、というのは如何にも前時代的で人権的に嘆かわしい行為です。
自分と他人は、今目の前にある状況の中で関わっていても、そこから先は別個の人格・価値観・尊厳を持った個々人です。もうそこは基本中の基本ですから、個人の尊厳を認める近代民主主義国家ならば。

それこそ過去なんて他人のプライバシーで関係ないし、自分がAVを観て劣情を催そうとした結果、発見したのだから、それを自分の知っている人物が出演していたら品性がない、と騒ぐなんて、自身を棚に上げ過ぎで、道理に合いません。

その人こそプライバシー侵害、名誉毀損であって、共存共栄を目的・前提としている社会の原則を壊して他者に損害を与えているのですから、むしろ制裁を課されても仕方がない側。

あの、それに私も不器用ながらにも一応44年ばかりは生きてきて、人間が数十年単位では誰しもどれだけ紆余曲折があるものか、我が身を振り返っても、人様のことを垣間見た範囲だけでも、十分に承知しているのですね。
その成り行きはいろんな巡り合わせや成り行きの化学反応があって、まさに神のみぞ知る次元です。一人の人間が推し量ることが可能な長尺の時間軸じゃないんですよ。

今日、何万人もの詐欺に苦しむ人々を命懸けで救っている人権派弁護士でも、30年前には弟のおもちゃを取り上げて喧嘩していたかも知れない。今、困った自分に親身になって食べ物と住む場所を用意してくれた善良な恩人でも、15年ほどでボケてきて癇癪持ちとなり、スーパーマーケットで万引きして捕まっているかも知れない。人間は素晴らしいけれど、同時にその程度の脆くて不完全・不確かな生き物なんです。

リンク先記事文中の弁護士の言葉通り、AV出演であっても20年も前のことまで本人が告白しなければならない義務などありません。
そんなことまで誹謗中傷するなんて、その人は余程狭い世界の中で生きてきて、自力で人生を戦ってきていない腰抜けか、お前は自分を全智無謬の神だとでも思っているのか!と問いたいものです。


法的問題の先となると、どうしても私個人の道徳観で語らざるを得なくなりますが、制度的な拘束はなかったのですから、もし法的事柄以上に宗教家としての範を示すのなら、寺院の経営よりも、この奥さんを身を挺して庇ってこそ宗教家らしい、と私個人は感じます。
この夫男性は宗教家ではなく商売人である、ということなのでしょうが、それこそが宗教的な内実の形骸化をもたらすものなのでは。

日本の伝統仏教は江戸時代に檀家制度が取られたこともあって、ほとんどすべての宗派が妻帯可能です。そうした制度的な因習の大きいものを宗教的にどう捉えるか、というのは各自の宗教観によっても異なってくるでしょうが、取り敢えず現実としては、日本の仏教に社会の側が修道院のような禁欲性や条件を課す僧籍従事者と信徒の関係にはなっていないと思います。
つまり、20年も前のことを引き合いに出して「AV女優だ。月謝を返せ」などと要求することは、やはりその人に対する人権侵害です。過去にAV女優であったら僧籍の人間と結婚してはいけない、という制度的前提になっていないのですから、この妻の方が、自分の過去を告白していなかった、と責められる謂れはないはずです。

とにかくこの夫である僧侶がクリスチャンでもムスリムでもない、日本の仏教界の人間である、という現実がポイントだと思います。自分自身が制度的に許される範囲で妻帯者になったのですから、妻が制度的・法的に謂れのない非難中傷をされた時に、慈悲を説く宗教家の立場の人間が、自分で愛し選んだはずの妻を守らずして、他にどのように誰かを導けるほどの精神性を示せるのでしょう?
精神的指導者でなく形骸化した既得権益団体を維持することがしばらくの間可能になるだけです。つまり、義を通していない。そこは今の日本の宗教道徳のなさとも通底しているのかな、とも感じます。

全体的に事の顛末が倒錯しているし、そこにこの社会におけるコンセンサス構築の幼稚さ、了見の狭さ、理性の未発達性が感じられてなりません。


【追記】
(あるグループにこのブログ記事を投稿したところ、結構な論争に発展、一部では宗教論争風にもなってきたので、そこの部分の自身の見解を示すために書いた文章をこちらへも追記しておきます。)
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私としては夫婦間の厳密な関係性までは定かでない、と慎重に留保しておくのが公平な態度だと感じます。ただ、制度そのものの倫理性の矛盾とか法的正当性は、そこと分けて整理してコンセンサスが作られていかないと、もっと混乱が避けられなくなる話である、といった形の問題提起をしたつもりです。
つまり、個別の夫婦間の問題の解決は当事者でないのでさて置き、こうしたトラブルが起きる構造的な道徳観の脆弱性について違和感を感じる、と書いたのです。

宗教そのものを否定するような観点、といったものは、私個人はまったくありません。
むしろ社会が宗教道徳を超える倫理性を構築して成功している例は、現実的にも極めて少ないのです。旧ソ連や東欧などの共産圏の人たちが、人間的にはいい人であっても、日常生活のモラルで相対的に道徳的規範がゆるい、というのはよく知られていたことで、私もインドの文化学校その他で世界中の人たちと共同生活をした経験があるので、その点は実感としてもあります。かっぱらいとか触法行為に関するタブー意識が低いのですよ。

では、社会主義的な社会改革が全部ダメかと言えばそんなこともなくて、インドは連邦政府なので州政府毎に独自の政治体制を持っていたりするのですが、モデルケースと呼ばれているケーララ州政府は、長年共産党政権下で社会改革が進められてきました。
彼らのすごいところは、人々の信仰の自由は認めたままで、例えばヒンドゥー教のカースト制度の撤廃まで実現していたところです。それは社会運動としての民衆との信頼関係構築で成功したので可能だったのです。

ケーララは、特に世界の三大宗教が拮抗している土地柄でもあります。三大宗教と言うのは、キリスト教、イスラム教、そして仏教ではなくヒンドゥー教のことです。
これは恣意的に宗教の優劣をつけるのでなければ、人口比の順位でいけばこの三つとなる、という意味です。
ともあれ、ケーララで社会改革が進んだ要因の一つには、早くからキリスト教系のミッション学校が開明的な人道意識や男女平等の教育を広めていた下地もありましたし、宗教がそれぞれの社会共同体の基礎を成している社会に於いては、そうした各自のアイデンティティを否定せず、多様性を認め合った上で公益性のある社会改革では互いに協力し合う、という形態を取らなければ何も成し得なかったでしょう。その際どい舵取りを地域社会に於いて成功させたのが、親ソ連派のインド共産党から袂を別ったCPIMという政党を軸とした連立政権だった、そうした経緯があります。

いきなりケーララの社会改革を例に出しても日本では認知度が低いので、どれだけの功績があったかについては、私が以下の文章で書いているのでご参考までに。
http://catalytic.exblog.jp/18909464/

とにかく、私個人は宗教を完全否定することは価値観の多様性の破壊に他ならず、現実的な社会改革のコンセンサスを得ることも難しい、という観点でいます。
そして、社会的公益性に基づいた決定は、民衆との実践的な信頼関係が十分に築かれていれば、逆にその個別の宗教内でもカースト制度などのように不合理なものは撤廃可能なのです。人間は現実の結果によって変わっていくものだからです。
しかし、その前段階に於いて、排他的な独善性を強く打ち出すと決して上手くいかないし、中国の文化大革命やソ連のスターリン時代の大粛清、カンボジアのポルポト派の大虐殺のような、取り返しのつかない悲劇へと繋がっていくのだと思います。
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by catalyticmonk | 2016-01-25 01:06 | 人間の尊厳 | Comments(0)


溢れ出る部分を勝手にやっています。異端者のあなた、多分私はあなたの味方か仲間です。 河元玲太朗


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